【意匠・構造・設備 すべての建築設計職へ】AI時代に残る設計職とは? —代替される業務と、磨くべき力の再定義

【意匠・構造・設備 すべての建築設計職へ】AI時代に残る設計職とは? —代替される業務と、磨くべき力の再定義

「この仕事、あと何年できるだろう」

生成AIが数秒でパースを描き出す動画を見たとき、構造解析ソフトが複雑な架構パターンを瞬時に何十パターンも提示する記事を読んだとき、あるいは同僚が「もうこの作業、AIにやらせてるよ」と何気なく口にしたときに、そう感じたことはないでしょうか。積み上げてきたスキルの意味が、急に揺らいだ気がする瞬間があります。

意匠、構造、設備。どの分野で働いていても、この揺らぎは他人事ではありません。2023年3月に米ゴールドマン・サックスが公表した調査では、建築設計・エンジニアリングはAIによる代替の影響を受けやすい職業の3位に挙げられました。AIの台頭は、若手であれば「この先に積み上げるべきスキルが分からなくなる」不安、経験者であれば「これまで培ってきた専門性が上書きされる」焦りとして、それぞれの形でのしかかってきました

「AIに仕事を奪われるか」ではなく「委ねる判断の境目」を考える

その後、2026年4月に同社が公表した分析では、見方がやや変わってきています。職業への影響を「AIが人に置き換わる仕事」と「AIが人を補う仕事」に分けて捉えるべきだという考え方です。この分析では、インテリアデザイナーのような職種は、AIに置き換えられるタスクは多いものの、非定型的な業務が多く現場に足を運ぶ頻度が高いために完全な代替が難しく、AIによる補完性が高い職種と位置付けられました。

建築設計職として、この不安に正面から向き合う前に、一度立ち止まって問いを変えてみましょう。

「AIに仕事を奪われるかどうか」ではなく、「AIに委ねてよい判断はどこまでか」

歴史を振り返ると、新しい道具そのものが人の仕事を奪ったことは一度もありません。手描きの時代の道具がCADに置き換わり、CADがBIMに置き換わっていく過程で仕事を奪ってきたのは、道具ではなく、その道具を使いこなす人間でした。今回のAIについても、この構図が繰り返されるのか、それとも歴史の前例を破る変化になるのかは、正直なところまだ誰にも分かりません。

分かっているのは、設計のプロセス自体が変わり始めているという事実です。これまでの設計は、顧客の要望を汲み取りながら何案も検討し、曖昧な合意形成を重ねてプランをこつこつ積み上げていく「積み上げ型」でした。ところがAIは、文章やスケッチから完成形に近い提案をいきなり示せます。初期段階から高い詳細度の案を出し、そこから実現に向けて精度を上げていく「逆算型」へと、プロセスの重心が移りつつあります。

この変化が意味するのは、設計者の仕事が消えることではありません。設計者の役割が「案をゼロから作る人」から「AIが出した案を評価し、意図とすり合わせ、実現に導く人」へと移っていくということです。だとすれば、磨くべき力を考える出発点は、「AIに委ねてよい判断」と「ヒトが最後まで持つべき判断」を、自分の専門分野の中で見極めることになります。

AIに委ねてよい判断

多くの選択肢を並べて比較したい場面

意匠設計であれば、ボリュームスタディやファサードのデザイン案出しは、AIの方が圧倒的に速く、多くの選択肢を出せる領域です。クライアントの要望に近づくスピードそのものが、AIによって上がります。

構造設計であれば、構造計算ソフトによる解析はすでに広く使われていますが、AIが加わることで、架構パターンの検討範囲はさらに広がっていきます。設備設計であれば、限られた設備スペースの中で配管や機器をどう効率的に配置するか、AIがアイデアを出してくれるようになる可能性が高いでしょう。

これらはいずれも、「多くの選択肢を並べ、比較する」という性質の判断です。人間が時間をかけて手作業で積み上げてきた部分だからこそ、任せられたときの負荷軽減は大きいものです。この領域で「速さ」や「量」を競おうとする努力は、これからは手放していいのではないでしょうか。その分の時間とエネルギーを、次に挙げる判断に回すことが、これからの設計者にとっての戦略になります。

ヒトが持つべき判断

①意図を「伝える」場面

AIが出した提案資料は、精度が高くても、それ単体では相手に「伝わる」とは限りません。ある実務者はファサードデザインを検討する場面で、AIに多くのイメージ画像を生成させ、クライアントの好みに近いデザインを絞り込んでいく作業を任せられると感じたといいます。ここまではAIの得意領域です。

しかし、その先には絞り込んだデザインを、社内の規定や施工上の制約に落とし込みながら、クライアントの意図からずれないように施工者と話を詰めていく作業があります。この調整には、その場の空気を読み、相手の感情に働きかける力が必要になるので、資料を作るところまではAIができても、それを人に伝え、納得してもらい、次の工程に進めるのは、依然として人間の仕事として残るでしょう。

意匠に限らず、この「伝える」判断は分野を問わず存在します。AIが出した最適解を、現場の人間関係や利害の中でどう着地させるか。ここで磨かれるのは、プレゼンテーション力というよりも、相手の反応を読み取りながら意図をすり合わせていく対話力です。

②未知・非定型に向き合う場面

構造設計において、AIの解析力が及びやすいのは、条件が明確な新築案件です。一方、近年注目されているリノベーションや改修工事では話が変わります。既存建築の調査をし、図面に残っていない経年劣化や施工誤差を読み取り、どこまで安全性を見込むかを判断する場面では、データが揃っていない中での判断力が問われます。AIが学習できるデータそのものが乏しい領域だからこそ、人間の経験に基づく目利きが残りやすいといえます

設備設計でも同様に、標準的な条件下でのレイアウト提案はAIに委ねられる一方、既存建物の制約の中でどう折り合いをつけるかという場面では、経験に基づく判断が必要になります。AIが強いのは「データがある場所」であり、人間が強いのは「データがない場所」だと捉えると、自分の専門分野でどこにこの境界線があるかが見えてくるはずです。

③責任を引き受ける場面

構造設計者が長年の経験とAIの発想を組み合わせ、安全性を担保しながら新しい架構を生み出すことは、これから十分に可能になっていくでしょう。ただし、その安全性を最終的に担保するのは、AIではなく人間です。設備設計においても、これまでサブコンに依頼していた細かな配管調整などが自社内で完結できるようになる可能性はありますが、施工者への依頼という行為そのものは、責任を負える人間が行う必要があります。

AIがどれだけ精度の高い提案を出しても、その提案を採用し、実行に移す決断の責任は、最終的に人間の名前で引き受けるしかありません。この一点は、意匠・構造・設備のどの分野でも変わりません。むしろAIが提案の質を上げるほど、その提案を選び取り、責任を持つ人間の判断の重みは増していきます。

AIによって新しく生まれる仕事 —「一緒に考える」役割

AIによって代替される業務がある一方で、新しい仕事も同時に生まれています。すべての設計者がすぐにAIを使いこなせるわけではありません。想定通りの成果物をAIに出してもらうために、どのようにプロンプトを書けばよいのかという問いに、誰かが一緒に向き合う必要があります

半年前には存在しなかったこの役割は、AIの進化のスピードに合わせて、これからますます必要とされていくでしょう。AIを使いこなす人間に仕事が奪われるのだとしたら、その裏側で、AIを使いこなす人間を増やす仕事もまた、誰かのものになっていきます

まとめ:案を作る速さから「評価し、伝え、責任を負う力」へ

ここまで見てきた判断を並べると、意匠・構造・設備という分野の違いを越えて、共通する構図が見えてきます。AIに委ねてよいのは「選択肢を広げる」判断であり、ヒトが持つべきなのは「選択肢を絞り、伝え、責任を引き受ける」判断です。逆算型のプロセスに変わっていくほど、設計者に求められるのは案を生み出す速さではなく、出てきた案を評価し、人と人の間で意図をすり合わせ、最後まで見届ける力になります。

これは、これまで現場で培ってきた対人折衝の経験や、曖昧な状況で判断を下してきた経験が、むしろ価値を増していくということでもあります。AIが得意な領域を素直に手放し、その分の力を、伝える判断・向き合う判断・引き受ける判断に注いでいくことが、これからの設計職に求められる姿勢になるのではないでしょうか

AIがどれだけ精度の高い提案を並べられるようになっても、その提案に意味を与え、人と人の間に立って現場を動かしていけるのは、これからも変わらず、ヒトの仕事です。

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AIの進化によって設計のプロセスが変わっていくほど、対人折衝力や責任を引き受ける経験といった、これまで現場で積み上げてきた力の価値はむしろ高まっていきます。

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