設計事務所業界におけるキャリアアップのロードマップとは〜業界・職種紹介、転職のポイントまで徹底解説〜
設計事務所業界とは
設計事務所は、建築、インテリアデザインを設計を担う企業ですを指し、顧客のニーズや要件に基づいて建築物や構造物を設計します。設計事務所にも、組織規模に応じて、組織設計事務所、アトリエ・個人の設計事務所などの種類があり、それぞれの特徴があります。
組織設計事務所
組織設計事務所は、人数規模100人〜1000人以上の設計事務所を指し、受注案件としても、集合住宅、オフィス、商業施設、公共施設、文化施設など、幅広いことが特徴です。
会社内に、意匠、構造、設備、ランドスケープなど、各専門部署があり、それらが連携することにより、一つの組織で幅広い用途の建物の設計を担うことができます。
アトリエ・個人設計事務所
アトリエとは、いわゆる実力が認められた建築家を中心とした設計工房です。個人設計事務所は、個人が独立して設立した事務所を指すことが多いです。アトリエ・個人設計事務所の特徴としては、デザイン・意匠に特化していたり、クリエイティブさが求められるような様々なコンペ提案やプロポーザルを行うことで仕事を取ってくることが挙げられます。
他業界との関わり(建設業界における位置付け)
設計事務所を取り巻くステークホルダーとして、「施主」「施工会社」「行政」等が挙げられます。
施主は設計事務所に対して、意向を伝えて設計業務を依頼し、フィーを支払う位置付けです。施主には、デベロッパー、行政、一般企業・法人、個人など様々です。設計事務所は施主に対して提案は行いますが、お金を出す存在である施主の意向が最上位に来るため、施主によって設計の自由度には差が出てきます。
施工会社はいわゆるゼネコンを指し、設計事務所が描いた図面をもとに施工を行ってもらいます。この際、施工会社が施工を行いますが、施工会社の構法・工法との調整を行い実施設計まで詰めていきます。
ここでいう行政とは、施主ではなく、認可権者としての行政を指しており、自治体ごとに建築に関わる条例・規制・緩和措置等があり、それらの設計前提を把握することも設計事務所の業務内容に含まれます。実は、設計事務所のノウハウとして、この設計ルールの把握が最有効な設計を行ううえで、最も重要となります。ある条件を満たせば、より多くの床を作ることができるなど、建物の資産価値に繋がるためです。
以上のように、設計事務所は、建物を建てる過程で中心的な役割を担う位置付けにあります。
設計事務所業界のトレンド・今後の動向
設計事務所業界では、常に新しい技術が導入されており、そのポイントは、図面的な2Dから立体の3D、空間感覚としての4Dへの移行が挙げられます。そしてそれを実現する技術として、AIやVR等に注目が集まっています。
人工知能(AI)と機械学習
AIと機械学習は、建築設計プロセスを効率化し、デザインの自動生成や最適化を可能にするために活用されています。例えば、建物の形状最適化やエネルギー効率の向上などに利用されています。
バーチャルリアリティ(VR)と拡張現実(AR)
VRやAR技術は、建築プロジェクトの設計段階から施工までの過程で使用されています。これらの技術を使用することで、クライアントや利用者が建築物や空間をリアルタイムで体験し、フィードバックを提供することが可能です。
建築情報モデリング(BIM)
BIMは、建築プロジェクトの設計、施工、管理において広く使用されています。BIMを使用することで、設計者や建設業者が建物の3次元モデルを共有し、情報を統合管理することができます。
デジタルツイン
デジタルツインは、物理空間のデジタルモデルをリアルタイムで反映する技術です。建物のデジタルツインを使用することで、建築物のパフォーマンスをモニタリングし、運用効率を向上させることが可能です。
これらの最新技術は、設計事務所がより効率的にプロジェクトを推進し、より持続可能で快適な建築物を提供するための重要なツールとなっています。
設計事務所業界における職種、仕事内容、魅力について
建築設計職
建築設計職はいわゆる建物の施主の意向を汲み取り、基本プランニングを行う位置付けで、空間配置、動線計画、大まかな構造計画、設備計画を行い、各専門職との連携を行うプロジェクトマネージャー的な位置付けです。
この職種の魅力は、設計を主導で行うやりがいを感じられ、設計プロジェクトに対して自分がまとめあげた作品としての自負が感じられることが挙げられます。また、自身の思想や考えを設計に落とし込むことも可能で、それをもとに施主の心を動かしたり、ステークホルダーに協力を仰いだりするなど、やりがいを感じられるでしょう。
構造設計職
構造設計職は、建築設計職が描いた基本プランニングに対して、構造的な観点から最有効な構造・構法を提案し、構造シミュレーションや構造設計を担う職種です。
裏方のようなイメージを持たれることが多いですが、特徴的な構造設計を外観や空間デザインに全面的に落とし込んだ建築もあり、意匠設計とも繋がりが大きい領域です。
この職種の魅力は、構造という建物が建物たる根幹を支えている分野のプロフェッショナルであることが挙げられ、構造設計一級建築士が建築士資格の中で最上位に位置付けられるほど、建築においては非常に重要な職種となっています。
設備設計職
設備設計職は、構造設計と同じく、建築設計が描いた基本プランに対して、設備的な観点から助言や実現性を担保していく職種です。
具体的には、空調、水道、電気等の設備、配管の配置計画を建築設計、構造設計とも調整しながら、行います。
この職種の魅力は、裏方的ではありますが、最有効な設備計画ができることで、空間の魅力を損ねることなく、設計全体を進めることに繋がる点で、この職種の能力によって出来上がる空間の質が変わることが感じられる点にあります。
環境設計職
環境設計職とは、建物内外の環境の質を担保する職種で、建物内においては空気環境、熱・光環境など、快適に空間を利用するための設計を行う職種です。一部設備設計や建築設計がその役割を担うこともあります。
建物外に対しては、風環境が最たる例で、ビル風のように、大規模な建物の場合は特に、建設後の周囲への風の影響が大きくなる傾向があり、それを制御する職種です。
この職種の魅力は、設備設計と同様に、快適な空間の提供につながる点です。
ランドスケープデザイナー
ランドスケープデザイナーは建物を取り巻く外部環境や外構のデザインを担い、規模が大きくなると造園として一つの外部空間自体を設計する場合もあります。
外構は建物の背景を彩り、建物の風格や雰囲気を規定する重要な要素でありつつ、街並みを彩る重要な位置付けでもあります。
建築設計職とも密に連携をして全体の調和を保ちながら、心地いい外部空間の設計を行います。
この職種の魅力は、ランドスケープデザイナーが街と建築を繋ぐ存在である点です。
設計事務所業界におけるキャリアパスの描き方とは
様々な用途や規模の建築設計の経験を得る
建築の用途の種別は、大きく「住宅」と商業施設やオフィスを含む「非住宅」に分けられますが、規模の観点では住宅よりも非住宅の方が大規模になる傾向があります。そして、建築予算としても非住宅の方が大きくなるため、より設計の自由度としても高まる傾向があります。
近年は再開発事業を初め、住宅・商業・オフィス等の複合開発の事例が増えてきていることもあり、設計者としてのキャリア形成においては、住宅にとどまらず非住宅の設計経験も重要視される傾向があります。
一方、一定規模以上の非住宅の設計経験を得られる環境としては、準大手以上の組織設計事務所が多くを占めています。
一級建築士・構造設計一級建築士・設備設計一級建築士を取得する
先述した多用途の設計経験にもつながる要素として、一級建築士の取得が挙げられます。二級建築士は一定規模以上の建築の設計を主任できない一方、一級建築士を取得すると全ての建築設計を主任することが可能です。
実務上は主任建築士のもとで設計実務に従事することは可能ですが、自身がプロジェクトマネージャーのポジションとなるためには一級建築士の取得は望ましいでしょう。
一級建築士以上に取得が難しいと言われる資格として、構造一級建築士があります。構造設計のプロフェッショナルとしての資格ですが、構造設計は建物の形状や意匠性、効率性や合理性、安全性、経済性など、建築の根底に位置付けられる重要な部分です。この領域の専門性が高いことは、建築業界において非常に価値が高いとされています。
まずは一級建築士として多用途の設計スキルを磨きながら、そこに構造の専門性が掛け合わさることで市場価値の向上につながります。
また、設備設計一級建築士においても同様のことが言えます。設備設計は裏方の領域になりますが、非常に重要な位置付けのため、経験値に専門性を掛け合わせるという意味では非常に価値が高いでしょう。
法規・制度・条例への知見を深める
建築設計は多用途かつ大規模になるほど、様々な法規や制度、条例といった制約を伴います。その中には規制の緩和措置が設けられる場合があり、制約を外すことができる場合もあります。例えば、ある条件を満たせば、高さの制限が緩和されることなどが挙げられます。
実はこの制約を設計士の力量が分かれる1つのポイントとなります。
理由は設計条件を良化させることで建物の有効利用が可能となり、建物の価値向上にもつながるためです。施主の視点からすれば、重要な視点です。
そしてそのためには法規、制度、条例等の解釈力が非常に重要です。
一朝一夕で身につくことではないため、様々な設計の経験の中で、長期的に身につけていくことを心がけましょう。
設計事務所業界への転職のポイントとは
多用途の建築設計の経験を得る
複合用途が主流の現代においては、先述した通り多用途の設計経験が非常に重宝されるため、ご自身が所属する会社でそのようなチャンスがあれば、まずは手を挙げてみることをお勧めします。
転職以外にも、まずは組織内での部署変更も視野に入れるなど、柔軟に検討してみると良いでしょう。
現職の業務内容と設計会社の業務との関連性を明確にする
ここまで現状、設計者の方のキャリアパスについて解説してきましたが、施工管理職の方をはじめ、異なる職種の方が設計士にキャリアチェンジすることも可能です。
まずは設計会社への転職が望ましいですが、その際のポイントとしては、現職の業務内容を設計会社でどう活かせるか、を明確に提示することです。
例えば、ゼネコンに所属している方であれば、工法や材料、積算など現場ならではの知識を有している方が多いと思います。その知識や経験を設計会社で活かすということも一つのアピールになりますので、関連性を明確にすることを意識できると良いでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
設計とひと括りにしても、用途や規模、汎用性や専門性、キャリア形成の方向性のそれぞれで、考え方が大きく異なります。
難しく考える必要はなく、一級建築士の取得もしくば設計を務められる環境に身を置くことを足がかりに、多用途の設計経験を得ていくことが大筋のキャリア形成のポイントです。
ぜひ一度視野を広く持ち、ご自身のキャリアについて考えてみてください。
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設計者としてのキャリアアップにおいては、経験と資格の掛け合わせが重要な考え方です。そしてはじめにどういうロードマップを描いて行動していくががとても重要となります。
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