2025年、全ての新築建築物に省エネ性能が義務化! その背景と業界への影響とは

2025年、全ての新築建築物に省エネ性能が義務化!       その背景と業界への影響とは

近年、地球温暖化やエネルギー資源の制約といった社会課題への対応が求められる中、脱炭素社会やカーボンニュートラルを目指す取り組みが世界規模で進んでいます。
その中でも、建築物の省エネルギー化は重要なテーマとなっており、多くの国で注目を集めています。

日本においても、建築物省エネ法の改正により、2025年4月から原則すべての新築住宅に対して省エネ基準への適合が義務付けられることになり、省エネ性能の確保が一段と重視されています。

では、この法改正は建築設計や施工、さらには業界全体にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

本記事では、2025年から義務化される省エネ性能に焦点を当て、法改正のポイントや対象となる建築物、具体的な省エネ基準の内容を解説します。
さらに、設計・施工現場で押さえておきたい対応策や、今後の展望、そして課題についても詳しく取り上げていきます。

省エネ義務化の流れは、建設業界に携わる方にとっても、これから業界への転職を検討されている方にとっても、今後のキャリア形成に大きく関わってくる可能性があるため、ぜひ参考にしてみてください。

省エネ性能義務化の背景

まずは、省エネ性能が2025年から義務化されることになった背景についてお伝えします。

近年、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが世界的に活発化しており、日本でも「2050年カーボンニュートラル」や「2030年度までに温室効果ガス46%削減(2013年度比)」という目標が掲げられています。

これを受け、エネルギー消費の約3割を占める建築物分野での省エネ対策が急務となりました。
住宅やビルの断熱性能向上、高効率設備の導入、さらには再生可能エネルギーの活用といった多角的な対策が必要とされています。

こうした背景のもと、建築物の省エネ性能を法律で定める「建築物省エネ法」が強化され、2025年4月からは新築住宅を含む幅広い建築物で省エネ基準への適合が義務付けられることになりました。

従来は、非住宅建築物の一部に省エネ基準が適用されていましたが、住宅を含めた建築物全般に対象が拡大されることで、国内のCO₂排出量削減への貢献が期待されています。

この流れには、国際的な脱炭素社会の実現を目指す潮流も大きく影響しており、日本の建設業界もこの変化に対応することが求められています。

2025年に向けた社会・産業界の動向

省エネ性能の義務化は、すでに非住宅(オフィスビルや商業施設など)の一部で段階的に導入が進められてきました。

2017年には、延床面積300㎡を超える非住宅建築物を対象に、省エネ基準適合が義務化されました。その後、対象建築物の拡大や住宅における説明義務の導入を経て、2025年4月からは原則すべての新築住宅・非住宅で省エネ基準が適用されることになります。

建築確認の際、省エネ基準を満たしていない場合は着工が認められない仕組みが導入されるため、設計や施工の現場においても大きな影響が予想されます。

この法改正により、事業者には新たな技術の導入や設計手法の工夫が求められる一方で、住宅購入者やテナント企業は、省エネ性能やエコ住宅を考慮した選択が重要になってきます。

また、木材利用の促進も法改正の重要なポイントの一つであり、木造建築の普及が進むことで、環境負荷の軽減や資源の有効活用が期待されています。

省エネ性能義務化の概要

法改正の内容・ポイント

続いて、省エネ性能義務化によってどのような点が変わるのか、改正の内容をご紹介します。

2025年4月から、原則すべての新築建築物(住宅・非住宅)に対して、省エネ基準への適合が義務化されます。これまでは延床面積300㎡以上の非住宅建築物を対象としていた省エネ基準適合義務が、住宅や小規模建築物を含めたすべての新築建築物に拡大されます。

さらに、増改築を行う場合も対象となり、増改築部分が省エネ基準に適合する必要があります。この基準適合は、建築確認申請の段階で審査され、基準を満たさない場合は着工ができない仕組みとなります。

主な改正ポイントは以下のとおりです。

原則すべての新築建築物の省エネ基準への適合義務化

  • 300㎡未満の小規模住宅や非住宅でも、ほぼすべての新築建築物が対象になります。

増改築部分の省エネ基準適合

  • 従来は増改築後の建物全体が対象でしたが、改正後は増改築部分のみでの適合審査に。

評価方法の合理化

  • 書類審査などの手続きが簡略化され、審査がスムーズに行われる仕組みが整備されます。

4号特例の見直し

  • 小規模住宅などに適用されていた特例が縮小・廃止されるため、小規模な建物でも省エネ性能が求められます。

これにより、小規模建築物であっても断熱や設備の省エネ性能を確保する必要が生じ、建築主や設計者には新たな基準に対応する準備が求められます。

また、省エネ基準への適合が義務化される建物の範囲が大幅に広がることから、建設業界全体で対応が急務となっています。

省エネ基準とは何か

では、本記事にも何回か出てきた省エネ基準とは一体どのような基準なのでしょうか?

「建築物省エネ法」(正式名称:建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律)では、建築物が備えるべき省エネルギー性能を定めています。
この基準では、以下の2つの観点から建物のエネルギー性能が評価されます。

・外皮性能(断熱性能・日射遮蔽性能)

・一次エネルギー消費量

外皮性能(断熱性能・日射遮蔽)の評価

「外皮性能」とは、建物を外気から保護する外壁・屋根・窓などの断熱・遮熱性能を示します。外皮性能は、室内空調に必要なエネルギー消費を大きく左右する重要な要素です。

外皮平均熱貫流率(UA値)
建物全体からどれだけ熱が逃げやすいかを示す数値で、値が小さいほど断熱性が高いと評価されます。
地域ごとに基準値が設定されており、UA値を抑えるためには、高性能断熱材や複層ガラスの採用、隙間の少ない施工などが効果的です。

平均日射熱取得率(ηAC値)
夏期に窓などから取り込まれる日射熱を評価する指標で、こちらも値が小さいほど日射熱を防ぎやすいとされます。
庇や窓シャッターなどによる日射遮蔽、ガラスの遮熱性能などがポイントになります。

省エネ基準では、これらの数値が地域区分ごとに定められた基準値以下となるよう設計することが求められます。

たとえば断熱等性能等級でいうと4相当が目安とされていますが、さらなる高い等級(5.6.7など)も視野に入れる企業や施主が増えています。

一次エネルギー消費量

もう一つの指標が、建物で消費される総エネルギー量を評価する「一次エネルギー消費量」です。

「一次エネルギー消費量」とは、建物の冷暖房、給湯、換気、照明などに必要なエネルギーを石油や天然ガスなど一次エネルギーに換算して評価するものです。

BEI(Building Energy Index)
建物の一次エネルギー消費量を「基準一次エネルギー消費量」で割った指標で、1.0以下であれば基準を満たしているとみなされます。

再生可能エネルギーの活用
自家発電システムによる創出エネルギーがある場合、その分だけ一次エネルギー消費量が減るため、省エネ基準を満たしやすくなる側面があります。

一次エネルギー消費量の削減には、高効率エアコン・給湯器、LED照明、熱交換型換気扇などの設備導入が効果的です。
また、外皮性能との組み合わせで、快適さを損なわずコストを抑えた省エネ設計が可能になります。

省エネ義務化がもたらす影響と対応するためのポイント

ここまで、省エネ性能義務化の内容を中心にお伝えしましたが、ここからは法改正がもたらす影響と、それに対応するためのポイントについて解説します。

省エネ義務化がもたらす影響

建築業界への影響

省エネ基準の義務化により、建築業界では省エネ技術の導入が標準化されることが予想され、設計者や施工者は新基準への対応が求められることで、以下のような変化が生じると考えられています。

設計・監理業務の高度化

建築士は、省エネ計算や基準適合性の審査に対応する知識が必要となり、設計・監理業務での役割がさらに重要になります。

技術導入とコスト増

高効率設備や断熱材の使用が標準化される一方で、導入コストが課題となります。特に中小規模の事業者にとっては、これが経営上の負担となる可能性があります。

競争力の向上

エネルギー効率の高い建築物が普及することで、業界全体の技術力が向上し、国内外での競争力が強化されることが期待されています。

住宅市場への影響

省エネ基準の義務化は、住宅市場にも以下のような影響を与えると考えられています。

住宅ローン減税の適用条件

2024年から始まる住宅ローン減税の変更により、省エネ基準を満たさない新築住宅は住宅ローン減税の対象外となります。これにより、省エネ性能の高い住宅の需要が一層高まり、住宅購入者にとっては省エネ性能が選択基準の一つとなります。

省エネ性能表示制度の導入
2024年4月から導入される「建築物の省エネ性能表示制度」により、消費者は不動産広告や物件情報において、省エネ性能を一目で把握できるようになります。これにより、省エネ性能の高い物件が市場で優遇される傾向が強まるとともに、エコ住宅の普及が促進されるでしょう。

リフォーム市場への影響
増改築を行う際も、改築部分が省エネ基準に適合する必要があるため、リフォーム市場においても省エネ性能の向上が求められます。
これにより、リフォーム業者は省エネ技術の導入や施工方法の見直しを迫られることになります。

省エネ義務化に対応するためのポイント

省エネ技術や設計手法の習得

上記でもお伝えしたように、今後は省エネ基準に適合する設計や施工が今以上に求められることが予想され、最新の省エネ技術や設計手法を習得することが不可欠です。

建築士や設計者は、省エネ計算ソフトの活用や、断熱材の選定、再生可能エネルギーの導入方法など、具体的な技術についての知識を深める必要があります。
また、BIM(Building Information Modeling)などのデジタルツールを活用することで、省エネ設計の精度を高めることも重要です。

企業視点では、社員への教育・研修プログラムを充実させ、省エネ技術の習得を支援することが今後は求められます。

関連業界とのネットワーク構築

省エネ性能を高めるためには、関連業界との協力も重要になります。

特に、以下でご紹介する分野は省エネとの関連性も高いため、連携を進める動きが加速していく可能性が高いです。

​​設備メーカー・サプライヤーとの協力
高効率設備や断熱材など、省エネに寄与する製品を提供するメーカーとの連携を強化し、最新技術の導入を図ります。

エネルギーコンサルタントとの協力
エネルギー効率の高い設計や運用方法について専門的なアドバイスを受けるため、エネルギーコンサルタントとのパートナーシップを築きます。

自治体や政府機関との連携
省エネに関する補助金や支援制度を活用するため、自治体や政府機関との連携を深め、最新の情報を収集・活用します。

今後の展望と課題

すでにお伝えしているように、2025年の法改正は日本の建築物におけるエネルギー効率向上の第一歩で、今後も省エネルギーに関して様々な目標が定められています。

最後に、今後の目標や省エネルギーを達成するための課題についてお伝えします。

2030年に向けた省エネ基準の引き上げ

ZEH・ZEB基準の導入

2030年までに、新築住宅の省エネルギー性能を「ZEH(ゼッチ)」基準まで引き上げることが目指されています。

ZEHとは、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにする住宅のことで、一次エネルギー消費量等級「6」、断熱等性能等級「5」を基準としています。
これにより、住宅のエネルギー効率が大幅に向上し、脱炭素社会の実現に近づくと期待されています。

太陽光発電設備の普及目標

Z太陽光発電についても、2030年までに新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が導入されることを目指しています。

太陽光発電の普及により、建物が自らエネルギーを生産し、エネルギーの地産地消を実現が可能になるため、上記でご紹介したZEHとも関連性があります。

2050年カーボンニュートラルへの道

ストック平均での省エネ基準の確保

2050年までにカーボンニュートラルを実現するために、既存の建築物も含めたストック全体での省エネ性能の確保が求められます。

具体的には、省エネリノベーションやリフォームを推進し、建物の寿命を延ばしながらエネルギー効率を向上させる取り組みが求められます。

再生可能エネルギーの一般化

再生可能エネルギーの利用拡大も、2050年カーボンニュートラル達成の鍵となります。

太陽光発電やその他の再生可能エネルギー設備の導入が一般化することで、建物がエネルギーを自給自足し、外部依存を減らす仕組みの標準化が期待されています。

省エネ基準の引き上げに伴う課題

すでにお伝えしているように、省エネ基準の引き上げに伴い、設計、施工などの建設プロセスにおいてより高度な技術の導入が求められます。

特に、断熱性能の向上や再生可能エネルギーの効率的な利用には、最新の技術とそれを支えるインフラの整備が必要です。
また、既存建築物への省エネリノベーションには、建物の構造や用途に応じた柔軟な対応が求められます。

そして、建築物を建てる側も省エネ技術の導入やリノベーションには初期投資が必要であり、特に中小企業や個人にとっては負担となる場合があります。

また、太陽光発電設備の導入コストや維持管理費用も課題となっています。

このように、カーボンニュートラルを実現するためには、技術的、経済的な課題が存在しますが、これらを軽減するために、関連法規や基準の整備も今後に向けての課題と言えるでしょう。

まとめ

今回は2025年から義務化される省エネ性能について、法改正の背景や内容、与える影響についてご紹介しました。

省エネ性能が義務化されることで、設計や施工の段階から高度な省エネ技術の導入が求められるため、建築業界が今後大きく変化する可能性があります。
一方で、省エネ住宅への需要が高まり、新たなビジネスチャンスも生まれます。

省エネ性能については、2030年に向けたZEH基準の導入や2050年カーボンニュートラルの達成を見据え、今後も様々な法改正などが予想されます。

今後のキャリアプランを立てるうえでも、業界での主要なトピックについては、アンテナを張り、情報を集めるようにしましょう。

また、法改正やニュースなどを踏まえたうえで、自身のキャリアプランを考えるようにしましょう!

ビルドアップで有利なキャリアアップ・転職を

ビルドアップでは現在資格取得のサポートから、転職までのキャリアサポートを行っております。

建設業界では、建築士をはじめとする様々な資格の取得が今後のキャリアアップに有利に働きます。
ビルドアップでは、資格の活かし方や、建設業界のあらゆる職種についてどのように転職した方が良いかといった専門性を有した、建設業界に特化したエージェントが多数在籍しております。

建設業界でのキャリアアップ・転職を少しでも有利に進めたい方は、こちらからご登録ください。