【建築設計職向け】残業・働き方のリアルは会社でどう変わる?—会社・フェーズ・分野の違いから見る「続けられるか」への答え
はじめに
終電を逃した帰り道、タクシーの中でふと考えたことはありませんか。「このペースで、この先何年も走り続けられるのだろうか」と。あるいは、結婚や子育てのことを考えたとき、「この働き方のままで両立できるのか」と、漠然とした不安が胸をよぎったことはないでしょうか。
設計職という仕事に真剣に向き合っている人ほど、この不安は強くなります。手を抜けば図面の質が落ちることを知っているからこそ、締切前は自然と時間を投じてしまう。その結果として、体力的な限界や将来のライフスタイルへの不安が、じわじわと積み重なっていきます。
そしてもう一つ、多くの人が抱える疑問があります。「会社を変えれば、この状況は楽になるのだろうか」という判断のつかなさです。ゼネコンから組織設計事務所へ、あるいはアトリエ系から組織設計事務所へ。転職を考えたとき、実際にどれだけ働き方が変わるのか、確信を持てる人は少ないはずです。
多くの人が「設計職は残業が当たり前の仕事だ」と思い込んでいますが、実際にはそうとは言い切れません。設計職の残業の有無や多さには、会社やフェーズによって大きな差があり、その差を正しく理解することが「続けられるか」という不安に対する最も具体的な答えになります。ビルドアップは建設業界に特化したキャリアメディアだからこそ、現場の実務者としての視点と、業界全体を見渡す視点の両方から、この差を解説していきます。
業界全体の残業は減少傾向に。それでも現場で「実感」がない理由
まず、業界全体の動きを押さえておきます。2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。それまで建設業は、36協定を結べば残業時間に事実上の上限がない状態が長く続いていましたが、原則として月45時間・年360時間、臨時的な事情がある場合でも年720時間という枠の中に収める必要が出てきたのです。
厚生労働省が2025年2月に発表した「毎月勤労統計調査」の2024年平均速報によれば、建設業の所定外労働時間は前年比7.6%減の月12.7時間となりました。これは新型コロナウイルスの感染拡大があった2020年に次ぐ減少幅であり、制度としての変化は確かに進んでいます。国土交通省の週休2日達成率のデータでも、2021年度の30.7%から2023年度には63.4%まで上昇しており、休みの取りやすさという面でも前進が見られます。
ですが、こうした統計上の改善と、現場で働く一人ひとりの実感には、少しズレがあります。それは、業界全体の平均値が下がっていても、会社や時期によって、残業の実態には大きなばらつきがあるからです。日本建設業連合会の資料では、2025年の建設業の年間総労働時間は、産業全体の平均より約237時間、製造業より約40時間長いとされています。つまり「業界全体としては改善しているが、他産業と比べればまだ長い」というのが実態であり、その内側には会社・フェーズ・分野による違いという、もう一段細かい差が存在しているのです。
この記事では、その差を三つの軸から解いていきます。

①会社による違い
ゼネコン設計部門 —現場との掛け持ちが残業の質を決める
スーパーゼネコンの設計部門で働く方へ、まず伝えたいのは、ゼネコンの設計職の残業には独特の構造があるということです。
ゼネコンの設計は、設計だけで完結しません。基本設計・実施設計の段階から、施工部門や現場との調整が発生します。「この納まりで本当に施工できるのか」「コスト的に成立するのか」という確認が随所に入り、設計と施工の橋渡しをする時間が、設計そのものの作業時間に上乗せされていきます。図面を描く時間と、それを成立させるための調整の時間。この二重構造が、ゼネコン設計職の残業を長引かせる大きな要因です。
もう一つの特徴が、社内の合議・決裁プロセスです。大規模な組織であるがゆえに、一つの設計変更や判断を通すのにも、複数の承認ステップを経る必要があります。これ自体は品質管理やリスク管理のための仕組みですが、締切が迫る中で、この手続きに時間を取られる感覚は、ゼネコンで働く設計者なら誰しも経験しているはずです。
深夜、施工図の整合確認をしながら、翌朝の会議資料も同時に仕上げている。そんな夜を過ごしたことのある人は少なくないでしょう。設計と調整と社内手続き、この三つが重なる時期は、どうしても残業が積み上がります。
ゼネコンで働くことを選ぶなら、この構造を理解した上で、繁忙期の波にどう向き合うかを考えることが大切です。単に「残業が多い」と捉えるのではなく、「何に時間を使っているのか」を把握できれば、自分なりの時間の使い方の工夫や、上司への相談の仕方も変わってきます。
組織設計事務所 —分業の広さと案件の規模が生む多忙
組織設計事務所は、意匠・構造・設備・都市計画・コンストラクションマネジメントなど、多様な部門を抱える大きな設計事務所です。ゼネコンと違い施工そのものは担いませんが、大規模な案件を担当することが多く、一つのプロジェクトに関わる期間が長くなる傾向があります。
組織設計事務所の残業を特徴づけているのは、フェーズごとの負荷の差がはっきりしていることです。ボリュームチェックやプロポーザル、コンペティションといった提案段階、そして基本設計から実施設計に移る節目、さらに監理段階の竣工前。これらのタイミングが重なると、勤務時間は一気に伸びます。一方で、こうした山を越えた時期は、比較的落ち着いて働けるという声もよく聞かれます。
組織設計事務所を検討する際は、有価証券報告書や採用ページに記載されている平均残業時間だけでなく、繁忙期における上限時間や、実際のフェーズごとの負荷の波を確認することをお勧めします。月あたりの平均値が低くても、特定の時期に極端に偏っている場合があるからです。数字の背景にある「波の形」を見極める視点を持てると、入社後のギャップを減らすことができます。
アトリエ系設計事務所 —属人化がもたらす多忙
アトリエ系設計事務所は、建築家自身が主宰する小規模な事務所が中心です。住宅や店舗、小規模な商業施設など、企画から基本設計まで深く関わることができる環境が魅力ですが、その分、業務が個人に属人化しやすいという特徴があります。
一つの案件を、限られた人数で、企画からディテールまで一貫して担当する。これはスキルの幅を広げるという意味では大きな価値がありますが、裏を返せば、代わりが効きにくいということでもあります。周囲からのサポートを受けにくく、一人で案件を背負う形になりやすいため、忙しいフェーズが重なったときの負荷は、組織的な事務所よりも直接的に本人にのしかかります。
アトリエ系を選ぶ場合は、給与水準や労働時間だけでなく、「その事務所で自分が背負う範囲はどこまでか」を見極めることが重要です。設計の力を伸ばす環境としての価値と、働き方としての負荷は、切り分けて考える必要があります。
②フェーズによる違い —繁忙期ごとの負荷差
会社差に加えて、どの働き方を選んでも共通して存在するのが、フェーズによる負荷の波です。基本設計の初期段階は比較的落ち着いていても、実施設計への移行期や、確認申請・施主承認前、竣工直前は、どの会社でも残業が増えやすいタイミングです。
この波があることそのものは、設計という仕事の性質上、避けられない部分があります。ですが、働き方改革が進んだことで、この波の輪郭がはっきりしてきたという変化は、実感として確かにあります。勤怠管理システムの導入により残業時間が可視化され、週休2日や有休取得が推奨されたことで、平常期の残業を抑える力として働き始めています。
つまり「繁忙期は忙しいが、それ以外の時期は以前より働きやすくなっている」というのが、現在の実感に近い変化です。この波を前提に、自分のライフステージに合わせて働き方を調整できるかどうかが、長く働き続けられるかどうかの分かれ目になります。
③分野による違い —意匠・構造・設備で残業の「質」は異なる
会社差・フェーズ差に比べると比重は軽くなりますが、意匠・構造・設備という分野の違いも、残業の質に影響します。
- 意匠設計:施主やデザインの方向性を調整する役割を担うため、打合せやプレゼンテーションに時間を割く比重が高い
- 構造設計:計算や検証作業が中心となり、設計変更が入るたびに再検証が発生するため、後工程でまとまった時間が必要になる場面が多い
- 設備設計:意匠・構造の変更に連動して調整が発生することが多く、他分野の決定を待ってから動く場面が多い
いずれの分野も「忙しい理由」の性質が異なるだけで、忙しさの総量に大きな優劣はありません。自分の分野特有の負荷のかかり方を理解しておくことは、キャリアの選び方だけでなく、日々の時間管理の工夫にもつながります。
「会社を変えれば楽になるのか」への答え
ここまで見てきた通り、会社差は確かに大きな要因です。ゼネコンの掛け持ち構造、組織設計事務所のフェーズ差、アトリエ系の属人化。それぞれに異なる負荷のかかり方があり、どの環境を選ぶかによって、働き方は確実に変わります。
ですが、会社を変えることだけが答えではありません。同じ会社の中でも、担当する案件の規模やフェーズ、そして本人が担う役割の範囲によって、負荷は大きく変わります。例えば、複数案件を並行して担当するか、一つの大型案件に集中して関わるか。設計の判断に深く関わる立場か、実務の実行を担う立場か。こうした役割の選び方は、会社を変えるよりも早く、そして自分の意思で調整できる要素です。
つまり「会社を変えれば楽になるのか」という問いには、「会社差は確かにあるが、それだけで決まるわけではない」というのが正確な答えです。転職を考えるときは、会社としての傾向を見極めると同時に、その会社の中で自分がどのポジションを取れるのかまで含めて考えることで、判断の精度が上がります。
まとめ —今の忙しさは、無駄ではない
ここまで、会社差・繁忙期の波・分野差という三つの軸から、設計職の働き方のリアルを見てきました。どの環境にいても、忙しい時期があること、そしてその忙しさに理由があることは、共通しています。
今、目の前の忙しさに疲れを感じているとしても、それは決して無意味な負荷ではありません。ゼネコンでの調整力も、組織設計事務所でのフェーズ管理力も、アトリエ系での一貫した設計対応力も、すべてはその先のキャリアで、あなた自身の判断力として積み重なっていきます。
続けられるかどうかという不安は、今の働き方を正確に理解し、次の選択を自分の意思で選べるようになった瞬間に、少しずつ小さくなっていくはずです。
ビルドアップで有利なキャリアアップ・転職を
設計職としてどの環境で働くかを考えるうえで重要なのは、会社ごとの残業の傾向を正しく理解し、自分が担いたい役割と重ね合わせて判断することです。
ビルドアップでは、ゼネコン・組織設計事務所・アトリエ系それぞれの働き方の実態や、意匠・構造・設備といった職種ごとの特性に詳しい、建設業界に特化したエージェントが多数在籍しております。専門エージェントによるキャリア面談等も随時受け入れています。
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