不動産業界の最高峰の資格である不動産鑑定士とは? 仕事内容から資格取得の流れ、キャリアプランまでご紹介します

みなさんは「不動産鑑定士」という職業をご存じでしょうか? 不動産業界や資産運用に関わりのある方以外には、あまり馴染みのない職業かもしれません。
不動産鑑定士は、不動産の適正な価値を評価する専門家であり、不動産鑑定士の評価結果はさまざまな場面で活用されています。
本記事では、不動産鑑定士の基本的な役割や仕事内容から、資格取得のプロセス、キャリアプランまでを解説していきます。
不動産鑑定士に興味がある方はもちろん、不動産業界や専門資格に興味がある方も、ぜひ参考にしてください。
不動産鑑定士とは
まずは、不動産鑑定士についてご紹介します。
不動産鑑定士の鑑定評価は、不動産の売買や賃貸、相続、公共事業、都市開発など、多くの場面で基準価格となり、中立な立場から取引や計画を円滑に進める役割を担っています。また、仕事内容の章でも詳しくご紹介しますが、不動産の活用方法について助言(コンサルティング)することも業務の一つです。
不動産鑑定士は国家資格であり、資格保有者は全国でも約8,000人と不動産関連資格の最高峰に位置づけられています。
実際、もし不動産鑑定士がいなければ、土地や建物の適正な価値を判断する基準がなくなり、価格を巡るトラブルや不公平な取引が生じる可能性があります。
たとえば、相続や税金計算で適正な評価がなされない場合、関係者間での争いが増えるリスクがあります。
不動産鑑定士は、こうした問題を未然に防ぎ、不動産取引を支える重要な存在です。
土地家屋調査士との違い
不動産鑑定士とよく比較される職業に、土地家屋調査士があります。
どちらも国家資格で不動産に関わる職業ですが、その役割は異なります。
土地家屋調査士は、土地や建物の境界や面積を測量し、表示登記を行う仕事を担っています。
一方、不動産鑑定士は、不動産の価値を評価し、適正な価格を提示することが主な役割です。
実際は、土地家屋調査士が測量した結果を基に、不動産鑑定士がその土地の市場価値を評価するといった形で、両者が連携するケースも少なくありません。

不動産鑑定士になるには?
前章で不動産鑑定士は国家資格であるとお伝えしましたが、実際に不動産鑑定士の資格を取得するためにはどのような試験を受ける必要があるのでしょうか?
不動産鑑定士試験は、マークシート方式の短答式試験と、記述式の論文試験という2段階の形式で実施されます。短答式試験では、不動産に関する法律や基本的な知識を問われ、論文試験では、理論を実務に応用する力が試されます。
試験範囲は、不動産取引や土地利用、鑑定評価理論など多岐にわたり、専門性の高い内容が問われます。
さらに、試験合格後には「実務修習」と呼ばれる現場での研修が必要です。この期間中に、不動産鑑定士としての業務に必要なスキルを現役鑑定士の指導のもとで学び、修了後に正式登録を受けることで、業務に携わることが可能となります。
不動産鑑定士の資格取得は、試験合格だけではなく、実務経験を重ねながら成長するプロセスが求められるため、長期的な視野で計画的に取り組むことが大切です。
宅建士取得・実務経験の後に不動産鑑定士を取得するのが望ましい
不動産鑑定士は不動産資格の最高峰のため、基礎資格である宅建士を取得したのち、不動産関係の職種で一定の実務経験を重ねながら試験対策を行うことが望ましいです。
また、不動産鑑定士試験と宅建試験には多くの共通点があり、宅建で学んだ知識を不動産鑑定士試験でも活かすことができます。
たとえば、民法や借地借家法といった法律の知識は論文試験で、不動産登記法や宅建業法、法令上の制限などの知識は短答試験で役立ちます。
そのため、まず宅建を取得してから不動産鑑定士を目指すのも方法の1つです。
宅建に関しては以下の記事でも詳しくご紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
建設・不動産業界でキャリアの幅が広がる資格である 「宅建士」をご紹介します

不動産鑑定士の仕事内容
続いては、不動産鑑定士についてご紹介します。
不動産鑑定士の仕事は大きく分けると不動産鑑定評価とコンサルティング業務の2つに分けられます。
今回はそれぞれの仕事内容について詳しくご紹介します。
不動産鑑定評価(独占業務)
不動産鑑定評価は、不動産鑑定士の代表的な業務であり、不動産鑑定士だけに認められた独占業務です。この業務は、土地や建物の経済価値を公正かつ中立の立場で評価し、適正な価格を提示することを目的としています。
鑑定評価では、地理的条件や法的規制、周辺市場の動向といった多岐にわたる要素を分析し、不動産の適正な価値を求めます。この評価結果は「不動産鑑定評価書」としてまとめられ、公的機関や民間事業者の意思決定の基準となります。
具体的には、国や都道府県が行う地価公示などの公的評価や、不動産を証券化する際の資産評価が挙げられます。
また、不動産売買や相続時の価格算定でも利用されるため、鑑定評価は適正な不動産取引に欠かせないプロセスと言えます。
不動産鑑定士が行う不動産鑑定の方法
不動産鑑定士は、不動産の価額を評価する際に、収益還元法、取引事例比較法、原価法の3つの方法を主に活用します。ここでは、それぞれの特徴を簡単にご紹介します。
収益還元法
収益還元法は、不動産が将来生み出す収益をもとに価値を評価する方法です。
賃貸マンションや店舗、オフィスといった賃貸物件において予想される年間賃料収入から運営にかかる経費など差し引いた年間利益(NOI)を算出し、還元利回り(Cap Rate)で割返した価格が収益還元価格となります。
収益還元価格=NOI(年間賃料収入ー年間運営経費) ÷ Cap Rate(投資家還元利回り)
実際の収益や想定利回りから逆算される価格のため、投資目的の不動産評価に適しています。
取引事例比較法
取引事例比較法は、周辺エリアで類似した過去の取引価格事例を参考にして評価を行う方法です。不動産の立地や規模、条件などを比較し、対象不動産の適正な価値を導き出します。
この方法は、住宅地やマンションなど取引事例が豊富な不動産の評価でよく用いられます。
不動産は基本的に条件が異なるため、比較にならないような特異的な条件を持つ不動産は比較対象から外したうえで、
・地域要因(立地 等)
・個別要因(土地形状、接道状況、間取り、築年数、設備、修繕状況 等)
・取引時の要因(その時点の市況、経済状況 等)
を勘案し、補正を掛けたうえで、最終的な価格を算定します。
原価法
原価法は、不動産を再度建築するとした場合の費用から経年劣化分を差し引いて評価する方法です。
原価法では土地の評価は出せないため、取引事例比較法などで算定します。
建物の構造や材料費を考慮して計算されるため、取引の少ない公共施設や新築物件や特殊な不動産の評価に適しています。
コンサルティング
不動産鑑定士の業務は不動産鑑定評価だけではなく、もう一つ重要な役割として、不動産のコンサルティング業務があります。この業務では、不動産鑑定士として培った知識や経験を活かし、不動産をより効果的に活用するための具体的なアドバイスや提案を行います。
たとえば、不動産の有効活用を目的とした提案や、マンション建替えに伴うコンサルティングや資産評価、都市開発事業における不動産の資産評価や権利調整などが挙げられます。また、企業や行政が保有している不動産の活用方法を提案するCRE・PRE戦略や、不動産資産の管理業務であるプロパティマネジメントも、不動産鑑定士が担うコンサルティングの一部です。
このようなコンサルティング業務は、個人から企業まで顧客は幅広く、扱う不動産の規模や種類も様々です。
そのため、英語が得意な方であれば、語学力を活用して、海外の不動産を扱うプロジェクトなどに携われる可能性が広がります。

不動産鑑定士のキャリアプラン・就職先
ここまで、不動産鑑定士の資格や仕事内容についてご紹介しましたが、最後に不動産鑑定士の就職先についてご説明します。
資格を取った後、不動産鑑定士の仕事をするにあたってどのような働き方があるのか、今回は企業で働くケースと独立するケースの3つに分けてご紹介します。
不動産鑑定会社
日本には不動産鑑定会社が登録ベースで約3,000社強あり、全国展開をしている大手の鑑定会社や、自治体・地域単位での業務を請負う地域の鑑定会社、特定のアセットの鑑定を専門とする鑑定会社の3つに大別できます。
大手であれば、先述した鑑定評価業務やコンサルティングにおいてもエリアや業務領域の幅が広く様々な業務経験を得ることができるでしょう。
地域の鑑定会社であれば、行政やエリアの顧客などから継続的な依頼を受けながら、専門的かつ主体的な経験が得られる可能が高いでしょう。
専門的な鑑定会社であれば、特定のアセットのプロフェッショナルとして、市場価値を高めることが期待できるでしょう。
企業内鑑定士
不動産鑑定士の資格を取得した後、多くの方がまず選択するキャリアパスは、企業内鑑定士として働くことです。
企業内鑑定士とは、不動産鑑定士としての専門知識やスキルを活かし、企業に属して働く職業です。不動産鑑定事務所に勤めるイメージが強いですが、不動産会社、建設会社、信託銀行、生保・損保会社、鉄道会社、官公庁など、幅広い業界で活躍の場が用意されています。
主な業務には、不動産取引や資産運用における鑑定評価の提供、プロジェクト計画の評価や提案、不動産担保ローンの審査などがあります。たとえば、不動産会社では再開発プロジェクトや土地の有効活用に携わることが多く、金融機関では資産価値の評価や融資判断に関わる業務が求められます。官公庁では地価調査や公共事業に関連した評価業務を担当することが一般的です。
基本的には企業の社員として働くため、比較的規則的な勤務時間の中で、書類作成などのデスクワークと、現地調査を組み合わせた働き方となり、安定した環境で実務経験を積みながら専門性を深めることができると言えるでしょう。
また、企業内鑑定士としての経験は、将来的な独立開業や外資系企業への転職など、次のキャリアステップに繋がる可能性も秘めています。
独立開業
企業内鑑定士として経験を積んだ後、自ら不動産鑑定事務所を立ち上げ、経営者として働く道を選ぶ方も多くいます。
独立後は、公的評価やコンサルティング業務を中心に、個人や企業の多様なニーズに応える仕事を展開できます。特に「公的評価」は安定した収入が期待できる業務であり、不動産鑑定士が独立しやすい理由の一つとされています。
そして、コンサルティング業務を充実させることで、さらなる事業拡大を目指すことも可能です。
弁護士や税理士など他の専門職と連携することで、総合的なサービスを提供する事務所としての価値を高めることもできます。
企業勤めのような安定した環境とは異なりますが、自分の裁量で働き方を決められる自由さや、成果次第で収入を高められる点は独立の大きな魅力と言えるでしょう。
まとめ
今回は不動産鑑定士についてご紹介しました。
不動産鑑定士は、不動産の適正な価値を評価し、取引の基盤を支える重要な仕事です。その業務は、不動産鑑定評価という独占業務だけでなく、不動産の有効活用を提案するコンサルティング業務にも広がり、多岐にわたります。
また、資格取得後のキャリアプランも、企業内鑑定士として専門性を発揮する道や、自ら事務所を立ち上げて独立開業する道など、働き方の選択肢が豊富であることが特徴です。
その分、不動産鑑定士の資格を取得することのハードルは高く、計画的に対策を進めていく必要があります。
不動産業界でのキャリアを検討している方や専門資格に挑戦したい方は、不動産鑑定士という選択肢をぜひ視野に入れながら、ぜひ将来のキャリアプランを考えてみましょう。
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今回ご紹介したの資格は、不動産鑑定士の資格以外にも、建設業界における有利なキャリアアップのためには、様々な資格を取得した方が良いケースが多くあります。
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