【設計職6〜10年目へ】「設計×〇〇」の掛け合わせで、市場価値を最大化する

【設計職6〜10年目へ】「設計×〇〇」の掛け合わせで、市場価値を最大化する

はじめに

6〜10年目は、一人前になった先にあるふと立ち止まる時期 

設計の基本的な進め方が分かってきた。クライアントとの打合せも、ある程度は自分一人で回せるようになった。後輩から相談されることも増えてきた。6〜10年目という時期は、設計職として「一人前」になった実感を持てる一方で、ふとした瞬間に「このままでいいのか」という感覚がよぎる時期でもあります

意匠・構造・設備。分野は違っても、この感覚は共通しているのではないでしょうか。5年目までは図面の描き方、構造計算の手順、設備計画の基本といったことを「覚える」フェーズで、目の前の課題を一つずつ習得していくだけで、成長を実感できたでしょう。

しかし6年目を過ぎると状況が変わり、「覚えた先に何をするか」が問われ始めるのです。同じように設計の仕事を続けていても、5年後に「市場価値が上がった人」と「実務はできるが代わりはいくらでもいる人」に分かれていく。この分岐は、本人が気がつかないうちに始まっています

設計職には、施工管理職とは違う特有の事情もあります。「現場を管理する」仕事を選んだ人と比べて、「設計をしたい」という強い意志で設計職を選んだ人ほど、マネジメントや異なる領域への越境に対して、心理的なハードルを感じやすい傾向があるでしょう。「設計から離れることは、好きなことから離れること」という感覚は、決して珍しいものではありません

この記事では、その感覚を否定せず、むしろ前提として受け止めながら、6〜10年目の設計職がどう市場価値を高めていけるかを、具体的な「掛け合わせ」のパターンとして整理していきます。

市場が求める人材像は、静かに変わってきている

建設業界全体が人手不足にあり、設計職の需要は底堅く存在しています。しかし、「需要があること」と「高く評価されること」は別です。

図面作成や構造計算ができるのは、もはや「できて当然」の領域。いま市場が求め始めているのは、「判断できる」「調整できる」「提案できる」といった、一歩踏み込んだスキルです。

たとえば、行政協議で有利に話を進める交渉力、BIMのモデル統合を主導する推進力、コストと意匠のバランスを両立させる提案力。こうした「設計×〇〇」の掛け算が、6〜10年目という時期に大きな差を生み始めます

6〜10年目は、十分な実務力がありながら、キャリアを柔軟に変えられる最後のタイミング。10年を超えると専門性や役割が固定化され、新しい挑戦のハードルが上がります。だからこそ、今この時期に「掛け合わせ」を意識して深めていくことが、今後10年、20年のキャリアの強力な土台になります

次の章では、その第一歩として、自分自身のスキルを「棚卸し」する方法を解説します。

自分のスキルを棚卸しする2ステップ

STEP1:経験を棚卸しし、「何を解決したか」で語る

掛け合わせを考える前に、まず「今のスキルをどう語るか」を見直してみましょう。

多くの設計職は、「○○ビルの基本設計を担当した」「RC造集合住宅の構造設計を担当した」のように、自分の経験を「担当した案件」の単位で語ります。これは事実の記録ですが、市場価値を語る言葉としては弱いものです。

市場で評価されるのは、事実の記録にプラスして「自分が何を解決したか」を語れる人です。同じ経験でも、語り方を変えるだけで伝わる価値が大きく変わります。

分野弱い語り方強い語り方
意匠○○ビルの基本設計を担当容積率の限界まで引き出すため行政と複数回協議し、用途の組み合わせを工夫した計画で延床面積を拡大した
構造RC造集合住宅の構造設計を担当既存杭を活用した増築計画で、杭頭処理の方針を構造計算で検証し、解体コストを削減した
設備ZEB認定物件の設備設計を担当初期投資とランニングコストのシミュレーションをクライアントに提示し、ZEBの仕様レベルの変更を提案・実現した

ポイントは、「何を担当したか」ではなく「どんな制約や課題に対して、どう判断し、どんな結果につながったか」を言葉にすることです。ここまでできると、次の章で紹介する「掛け合わせ」のどこに自分の強みがあるかも、自然と見えてきます。

STEP2:「分野×用途×フェーズ」の掛け算で経験を見える化

さらに具体的に棚卸しをするため、自分の経験を「分野×用途×フェーズ」の3つの軸で見える化してみましょう。

例:
【分野】意匠×【用途】医療×【フェーズ】実施設計
【分野】構造×【用途】超高層×【フェーズ】基本設計
【分野】設備×【用途】ZEB改修×【フェーズ】実施設計

    このように経験を分解すると、自分が「どの組み合わせの経験が多いのか」「どこが薄いのか」が見えてきます。このタグの積み重ねこそが、次章で紹介する「設計×〇〇」の掛け合わせを選ぶ際の、最も現実的な出発点になります。

    市場価値を高めるための「設計×〇〇」の掛け合わせパターン

    ここからは、6〜10年目の設計職が市場価値を高めるための「設計×〇〇」の掛け合わせパターンを、9つ紹介していきます。すべてを取りに行く必要はありません。自分の現在地と、目指したい方向に合った1〜2個を選び、深めていくことが重要です。

    〈スキル・専門性を拡張する〉

    設計×BIM・デジタル

    BIMはもはや標準的な道具になり、「使える」だけでは差がつかなくなりました。差がつくのは、構造・設備とのモデル統合や干渉チェックを、自分が主導して回せるかどうかです。複数分野のモデルを統合し、干渉箇所の調整方針を決め、関係者を巻き込んで合意形成までもっていく。この「統合プロセスを主導できる」人材は、まだ少数派です

    ただし、大手ゼネコンの設計部にはBIM推進室のような専任チームがあり、後方支援を受けられる環境が整っていることも多くあります。一方、組織系・中小設計事務所ではこうした支援がなく、主導できる人材の有無がプロジェクトの成否を左右します。同じスキルでも、組織の規模によって希少性の意味が変わることを知っておく必要があります。

    【各分野ごとの例】
    意匠:構造・設備とのモデル統合管理、パラメトリック設計
    構造:一貫構造計算ソフトとBIMモデルの連携・自動検証
    設備:干渉チェックの自動化、エネルギーシミュレーションとの連携

    最初の一歩は、社内のBIM推進の取り組みに自ら関わり、「進め方を決める側」に回ることです。

    設計×法規・確認申請

    ここで紹介したいのは、「高度な条文を知っていること」ではなく、「行政との協議を、自分たちに有利な方向へ動かせる交渉力」というスキルの話です。

    例えば、再開発事業における容積対象床面積の除外範囲や条例上の解釈余地は、条文だけでは判断がつかず、行政との協議の中で決まっていきます。共通しているのは、「法規を守るために確認する」のではなく、「解釈を論理的に有利な方向へ動かす」という姿勢です

    この交渉力の核は二つあります。協議の場で行政担当者と対等に話せる知識量と、事前の情報収集・社内での認識合わせによって発揮される対話力です。協議の成否は、当日ではなくその前の準備でほとんど決まっています。

    【各分野ごとの例】
    意匠:用途地域の解釈による設計自由度の拡大
    構造:特殊な構造計画の適用判断と審査機関との技術協議
    設備:複合的な規制が関わる案件における所轄との協議の主導

    確認申請を「通すための作業」ではなく「設計の幅を広げる武器」として捉え直すこと。協議に同行する際、事前に論点を整理し自分なりの仮説を持って臨むことが、交渉力を育てます。

    〈市場での希少性を高める〉

    設計×海外・グローバル

    国内需要が縮小する中、海外案件に対応できる設計者の希少性は際立って高くなります。

    ただし、最初に必要なのは語学力ではありません。現地の文化に対する本質的な理解。表面的なマナーではなく、その背景にある思考様式を理解しようとする姿勢が問われます。同じくらい重要なのが、語学力という手段にとらわれず、資料や翻訳ツールを使ってでも伝えようとする熱量です。

    そしてもう一つ見落とされがちな前提として、海外案件の土台は国内実務の中で培われるということです。多くのゼネコンでは、国際部門への配属前に数年以上の国内実務経験が求められます。6〜10年目は、グローバルを「いつか目指す」のではなく、「今の国内実務が将来の土台になっている」と捉える時期です

    【各分野ごとの例】
    意匠:現地の建築規制・発注者文化への対応、海外設計事務所とのJV経験
    構造:海外の構造基準と日本基準との比較適用
    設備:現地のエネルギー基準・設備規格への対応

    入口として現実的なのは、社内の海外プロジェクトチームへの参画を、面談などを通じて継続的に希望し続けることです。

    設計×省エネ・ZEB

    2025年の省エネ基準義務化により、すべての設計職に関わる領域になりました。しかし実態として、ZEB要件がある案件以外では計算を設備側に任せきりにしてしまうケースも残っています。この差があるうちに、意匠計画の早期段階から外皮性能を織り込めるかどうかが、明確な強みになります

    【各分野ごとの例】
    意匠:外皮計算・UA値を意匠計画の早期段階から織り込む
    構造:ZEB対応に伴う大スパン・軽量化構造との整合
    設備:一次エネルギー消費量計算・再エネ導入計画・BEMS連携

    設計×施工知識

    施工知識は現場に出て身につくものと思われがちですが、実施設計の納まり詳細を描く段階で、すでにその差は表れています。「現場を待つ」のではなく「今の図面で鍛えられる」スキルだと捉え直すことが重要です。

    【各分野ごとの例】
    意匠:施工図チェック力・納まり知識による手戻りの少ない実施設計
    構造:鉄骨加工図・配筋図の読み込みと現場フィードバック
    設備:機器の据付条件・配管ルートの施工性を踏まえた設計

    設計×PM

    PMへの移行は「設計から離れること」のように感じられがちですが、ゼネコンの意匠設計では他社・他分野をまとめる業務がすでに多く存在します。大切なのは「PMになる」という発想転換ではなく、すでに内包されているマネジメント的要素を意識的に言語化し、磨くことです

    【各分野ごとの例】
    意匠:クライアント折衝・工程管理・他分野との設計調整
    構造:スケジュール管理・審査機関との工程調整
    設備:意匠・構造との整合管理、施主への計画説明

    設計×コスト管理・VE

    施工段階のVEとは異なり、設計段階のコスト感覚は、意匠性と品質のバランスを早い段階で提案できる力です。2〜3年目では見えにくい領域ですが、6〜10年目で確実に求められるようになります

    【各分野ごとの例】
    意匠:意匠性を保ちながらコストを下げる代替提案
    構造:材料費・工数を踏まえた構造種別・スパン割りの最適化
    設備:ライフサイクルコストの視点での仕様選定

    設計×用途特化

    「何でも設計できます」より「この用途なら任せてください」と言える方が、市場価値が高くなる局面があります。医療・物流・データセンターなど、用途ごとに求められる専門性は大きく異なります

    担当用途を自分の意思だけで選べる組織は多くありません。現実的には、キャリア面談などで長期的に意向を伝え続けることが最も再現性のあるアプローチ方法です。

    設計×リノベ・既存改修

    新築中心の現場では、リノベーション案件は経験を積む機会自体が構造的に少ないのが実情です。「希少だから価値が高い」というより「機会が少ない」と捉える方が実態に近いでしょう。

    裏を返せば、積極的に手を挙げて経験を積んだ人ほど、ストック活用が進む市場で評価される可能性があります。

    【各分野ごとの例】
    意匠:既存図面との照合・現地調査・用途変更に伴う法規適用
    構造:耐震診断・耐震補強設計
    設備:既存設備の更新計画・省エネ改修

    自分の現在地からどのパターンを選ぶかを考えよう

    9つの掛け合わせを見て、「結局どれを選べばいいのか」と感じた方もいるかもしれません。ここで大切なのは、自分が今いる環境によって、取りやすい掛け合わせと、意図的に取りに行く必要がある掛け合わせが異なるという視点です

    所属取りやすいパターン意図的に取りに行くべきパターン
    ゼネコン設計部施工知識・PM・コスト管理BIM・省エネ・用途特化
    組織系設計事務所用途特化・法規・リノベPM・グローバル・コスト管理
    中小設計事務所法規・リノベ・営業提案BIM・省エネ・PM

    たとえば、アトリエ系設計事務所のように、より意匠性を追求する環境では、用途特化やリノベーションといった掛け合わせが自然に積み重なっていく一方、BIMやPMのような領域は意識的に取りに行かない限り経験しにくい傾向があります。

    ただし、9パターンすべてを取りに行く必要はありません。すべてを中途半端に追いかけるより、「今の自分のコアスキル」に「1つの掛け合わせ」を重ねて、深さで勝負する方が、結果的に市場価値につながりやすくなります

    掛け合わせを実現する「環境選び」

    掛け合わせを選んだあと、もう一つ向き合う必要があるのが「今の環境で実現できるか」という問いです。

    例えばBIM統合を主導したいと思っても、所属する組織にすでに専任のサポートチームがある場合、自分が主導権を握る機会自体が少ないかもしれません。グローバル案件に関わりたいと思っても、国際部門への配属に一定の社内経験年数が前提とされている場合、今すぐには実現できないこともあります。

    そうした制約がある場合に考えるべきは、「今の会社で実現できるよう働きかけるか」「実現しやすい環境に移るか」という二つの選択肢です。どちらが正しいというものではなく、自分が掛け合わせたいスキルと、今の環境の構造を照らし合わせて判断していくことになります。

    6〜10年目という時期は、転職市場においても特別な位置づけにあります。実務をすぐに任せられる即戦力でありながら、キャリアの方向性をまだ柔軟に変えられる、キャリアの軌道修正がきく最後のタイミングです。今の環境にとどまるか・変えるかを判断する前に、まずは自分の現在地と目指したい掛け合わせを整理することが、何よりも有効な一歩になります。

    まとめ

    ここまで紹介してきた「設計×〇〇」の掛け合わせは、どれも一人で完結するものではありません。自分が今どの掛け合わせに強みを持っているのか、どの掛け合わせを伸ばすべきなのかを客観的に整理するには、第三者の視点を取り入れることが有効です。

    特に、6〜10年目という時期は実務経験が十分にある一方で、その経験をどう言語化し、どの方向に伸ばしていくべきかは、自分一人で判断しきれない部分も多くあります。今の環境でその掛け合わせが実現できるのか、それとも環境を変えるべきなのか、その判断には建設業界の市場動向に詳しい専門家の視点が役立ちます。

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