健康性と快適性の国際基準「WELL」とは?評価体系・国内事例・メリットをご紹介
近年、建物に求められる価値は「省エネ」や「環境配慮」だけではなく、利用者がどれだけ健康的で快適に過ごせるかへと広がっています。そうした流れのなかで注目を集めているのが WELL認証(WELL Building Standard) です。WELLは空気質、光、温熱環境、音、動線、水質、メンタルヘルスなど、人の健康とウェルビーイングに直結する要素を体系的に評価する国際基準です。
働き方改革や健康経営の推進が進む日本でも、オフィス、医療施設、研究機関などを中心にWELL導入の動きが広がっています。本記事では、WELLの評価体系や国内事例の紹介に加え、他の環境認証制度との違いや、理解することで得られるメリットを整理して解説します。
WELLの基本概要
WELLとは?
WELL Building Standardは、IWBI(International WELL Building Institute)が運営する、建物が利用者の健康・快適性にどれほど貢献しているかを評価する国際的な建物認証制度です。
LEEDが「建物の環境性能」に焦点を当てているのに対し、WELLは「建物が人に与える影響」に軸足を置いています。室内環境の質だけでなく、精神的・行動的な健康要素まで扱う点が特徴です。
評価体系:WELLの10 Concepts
WELLでは、建物の健康性を以下の 10 Concepts に基づいて評価します。
- Air(空気質):PM2.5・CO₂濃度・化学物質・換気性能など
- Water(水質):飲料水の安全性、浄水設備、衛生管理
- Nourishment(栄養):健康的な食の提供、加工食品の制限
- Light(光環境):自然光の取り込み、生体リズムに配慮した照明
- Movement(身体活動):身体活動を促進する動線設計や設備
- Thermal Comfort(温熱環境):暑さ・寒さの感じ方の最適化
- Sound(音環境):騒音の抑制、静寂性の確保
- Materials(有害物質管理):VOC削減、建材の安全性
- Mind(メンタル・ウェルビーイング):ストレス軽減、心理的快適性
- Community(コミュニティ形成・社会性):多様性への配慮、安全性、周辺地域との関係性
これらの概念は「人が心地よく働き、生活し、学ぶための環境」を総合的に評価するために設計されています。
Features・Parts・ポイント配分
WELLは、各要素を Features(評価項目) と呼ばれる単位で評価します。
- Preconditions(必須項目):認証取得のために必ずクリアする必要がある項目
- Optimizations(選択項目):達成度に応じて得点が加算される項目
WELL v2では、Featureをさらに細かく分解した Parts(パーツ) が導入されています。Partsは「具体的に何を達成すべきか」を示す技術基準で、各Partのクリア状況がポイントに反映されます。
Parts の例:
- 空気質に関するPM2.5やVOC濃度の基準値
- 水質検査で求められる化学物質や細菌類の上限値
- 光環境における照度や生体リズムとの整合性
- 音環境における騒音レベルの基準
このように、Feature(大分類) → Parts(詳細の要求) → ポイント という構造で成り立っています。
WELLの大きな特徴として、Performance Verification(第三者による実測検証) が必須です。空気質、水質、音環境などを実際に測定し、数値で効果を確認するプロセスが含まれるため、「実際に健康的な建物であるか」を確実に保証できます。
Partsの達成度に応じて最終的なポイントが決まり、Silver/Gold/Platinumの認証レベルに反映されるため、組織ごとに取り組みやすい項目から加点しやすい柔軟な仕組みとなっています。

出典:WELLとは | Green Building Japana
認証レベル
取得したポイントに応じて、以下の4段階で評価されます。
- Bronze(v2以降)
- Silver
- Gold
- Platinum
より高い等級を取得するには、必須項目の達成に加え、多くの加点項目に取り組む必要があり、総合的な建物の健康性が求められます。

WELL認証のメリット
WELL認証は、建物利用者の健康性と快適性を高めることに直結するため、企業にとっても建築関係者にとっても大きなメリットがあります。特に以下の効果が期待できます。
建物利用者の健康・快適性向上
WELL認証の取得により、空気質・光環境・温熱環境・音環境といった要素が高い水準で整備され、利用者がより健康的でストレスの少ない環境で働くことができます。集中力や生産性の向上にも寄与し、職場全体のパフォーマンス向上につながります。
健康経営の推進に寄与
企業が従業員の健康に投資していることを明確に示す指標としても機能します。WELL認証を取得したオフィスは、健康経営の取り組みを外部に発信するうえでも有効なアピール材料となります。
ブランド価値・信頼性の向上
WELL認証の取得は、企業の「人を大切にする姿勢」を示す強いメッセージとなり、採用活動や企業イメージ向上にも寄与します。また、WELLと併せてLEEDなどの環境認証も取得することで、総合的に優れた建物づくりを実現していることを証明できます。

日本におけるWELL事例
日本でもWELL認証の導入が進んでおり、特に大手デベロッパーが積極的に取得を進めています。虎ノ門ヒルズや三井不動産・森ビルといった大手デベロッパーが運営するオフィスプロジェクトでは、WELL認証を取得した建物が増えています。これらの事例では、空気・光・温熱環境・音といった観点で働く人の快適性を向上させる設計が積極的に導入されています。特に、健康経営を推進する企業にとってWELLは“働く環境の質”を示す指標となり、企業ブランドの向上や人材定着への貢献が期待されています。
森ビル:麻布台ヒルズ 森JPタワー・虎ノ門ヒルズ ステーションタワー(WELL Core Platinum 本認証)
森ビルが手がける麻布台ヒルズ 森JPタワーと虎ノ門ヒルズ ステーションタワーは、日本で初めてWELL Core プラチナ本認証を取得したプロジェクトです。両施設では、空気質管理(Air)、自然光を活かした光環境(Light)、快適性を高める温熱制御(Thermal Comfort)といった基本的な室内環境の質が高く評価されました。さらに、共用部の設計においても快適性や使いやすさが重視され、来訪者・ワーカーが心地よく過ごせる空間が追求されています。
これらの成果から、森ビルが目指す「環境性能」と「人への配慮」を両立したまちづくりの姿勢が明確に表れています。
JAKARTA MORI TOWER(インドネシア/森ビル海外プロジェクト)
JAKARTA MORI TOWERは、森ビルがインドネシアで開発したプロジェクトであり、同国で初めてWELL Core プラチナ本認証を取得したオフィスビルです。高い空気質管理や光環境の最適化など、主要なWELL評価項目を満たす取り組みが行われており、国際基準の健康的なオフィス環境を実現しています。
日本設計 本社オフィス(WELL 認証取得)
日本設計 本社オフィスは、WELLの考え方を取り入れて職場環境を改善した国内の代表的な取り組みの一つです。利用者が快適に働ける環境を整えることを目的に、以下のようなWELLの評価観点に沿った環境づくりが進められています。
- Air(空気質):高性能フィルターや適切な換気量の確保による空気質向上
- Light(光環境):自然光を十分に取り入れ、生体リズムに配慮した照明計画
- Thermal Comfort(温熱環境):温度ムラを抑えた空調設計による快適性の向上
- Sound(音環境):集中しやすい静音性の高いワークスペース設計
- Mind(心理的快適性):植物や自然素材を積極的に取り入れたバイオフィリック要素の導入
これらの要素は、実際に働く人が快適に感じられる環境づくりを目指したもので、オフィスの質向上だけでなく、組織としての働き方の改善にも寄与しています。また、こうした取り組みは、WELLの基準が実務でどのように活かせるかを示す好例となっています。

他の環境認証制度との違い
建築物の性能を評価する制度は複数存在しますが、それぞれの評価軸は大きく異なります。
CASBEE・BELS・LEEDとの比較
- CASBEE/BELS:日本の建物評価制度で、省エネ効率や環境負荷低減を軸に評価。
- LEED:省エネ・敷地・素材・室内環境など、建物そのものの環境性能を総合評価。
- WELL:健康性・快適性・メンタル面など、「人」に焦点を当てた評価。
WELLは評価の対象そのものが根本的に異なり、建物の“環境性能”ではなく“利用者の心身の健康”を主軸に置いています。そのため、LEEDやCASBEEと併用されるケースが多く、相互補完的な関係にあります。
WELLを知ることのメリット
室内環境を科学的に評価する力が身につく
WELLは空気質(Air)・光(Light)・温熱(Thermal)・音環境(Sound)といった、人が日常的に感じる要素を科学的な基準で評価します。そのため、以下のような“実務で役立つ視点”が身につきます。
- CO₂・PM2.5・VOCなど、空気質改善に必要な基準が理解できる
- 生体リズムを考慮した照明設計のポイントがわかる
- 温熱・音環境の快適性を定量的に評価できる
これらの知識は、オフィス改善・内装計画・リニューアル案件など幅広く応用可能です。
また、設計・施工管理の現場でも活かせます。
- 設計では、換気計画・照明配置・空調ゾーニング・建材選定にWELLの基準を組み込むことで、根拠ある“人にやさしい設計”が可能に。
- 施工管理では、空気質・音・温熱環境などの実測基準を理解することで、仕上がりの品質管理がしやすくなります。
つまり、WELLを学ぶことで 快適性を“感覚”ではなく“数値”で説明できる力 がつき、設計意図の明確化や施工品質の向上につながります。
キャリアの幅が広がる
WELLの知識は以下の領域で特に評価されやすく、キャリアの選択肢を広げる武器になります。
- オフィス設計・内装設計
- FM(ファシリティマネジメント)
- 不動産デベロッパーの企画部門
- ESG推進・サステナビリティ部門 働く環境の質が重視される今、WELLの視点を理解した人材は強いニーズがあります。
WELL APは専門性の証明となる
WELL AP(Accredited Professional)は、WELLの評価基準・運用手法を体系的に理解した専門家として認められる国際資格です。取得することで次のようなメリットがあります。
- 空間改善や健康性評価の専門性を明確に示せる
- 設計提案・オフィス改善提案に説得力が生まれる
- ESGや健康経営を重視する企業へのアピールにも有効 必須資格ではありませんが、“WELLを理解している”ことを客観的に示せるため、キャリア形成にもプラスです。
まとめ
WELL認証は、建物が利用者にどれだけ健康的で快適な環境を提供できているかを体系的に評価する国際基準です。Air・Light・Thermalなどの物理的な快適性から、Mind・Communityといった心理・社会的側面まで幅広くカバーしている点が特徴です。
日本でもオフィスを中心に採用が進み、森ビルや日本設計のような先進事例が増えています。LEEDやCASBEEなど既存の環境認証制度と併用することで、建物の「環境性能」と「人への配慮」の両立を図る動きも広がっています。
また、WELLの知識は設計・施工・FM・ESGなど多様な領域で活かすことができ、キャリアの幅を広げる強力な武器にもなります。これからの建物づくりや働く環境の改善において、WELLを理解しておくことは大きな価値があると言えるでしょう。
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