大規模再開発事業を支える「再開発コンサルタント」の役割や仕事内容をご紹介します
みなさんは「再開発」という言葉にどのようなイメージをお持ちでしょうか? 都市の再整備や大型プロジェクトといった印象や、虎ノ門・麻布台ヒルズや東京ミッドタウン八重洲などの事例を思い浮かべる方も多いかもしれません。
まさにそれらが再開発ですが、一見煌びやかに見える事業も、公共性・防災性の向上、地域社会・経済の活性化といったさまざまな目的や役割を含んでいます。
特に近年、人口減少や少子高齢化、さらには災害リスクへの備えとして、再開発の重要性はますます高まっています。古くなった施設やインフラを新しいものへと生まれ変わらせる再開発は、地域の安全性を高めるだけでなく、街全体の利便性や魅力を向上させる大きな役割を担っています。
そんな再開発を成功に導くために欠かせないのが「再開発コンサルタント」の存在です。
再開発コンサルタントは、計画の立案から関係者間の調整、プロジェクトの管理・推進に至るまで、幅広い業務を通じて都市の将来像を実現する上で重要な役割を担っています。
本記事では、再開発そのものの意義から再開発コンサルタントの役割や仕事内容、必要なスキルや資格について詳しくご紹介します。
都市づくりに関心がある方や再開発コンサルタントを目指したい方はぜひ参考にしてみてください。
再開発コンサルタントについて
再開発事業とは
再開発コンサルタントについてご紹介する前に、まずは再開発についてご紹介します。
再開発事業とは、都市の老朽化や機能不全が進んだエリアを再整備し、新たな価値を生み出すための開発手法です。
正式には都市再開発法に基く「市街地再開発事業」とも呼ばれ、細分化された土地や老朽化した建築物が密集する地区を対象に、敷地を一体的に再編成し、公園や街路の整備、建物の建て替えなどを行う法定事業です。
これら再開発の取り組みを通じて、防災力の向上や快適な住環境の提供、都市の魅力向上が図られます。
近年、再開発の重要性が高まっている背景には、日本社会が抱える独特の課題が挙げられます。
日本では、戦後の急速な都市化と経済成長により、多くの地域で都市開発が推進されています。
一方で、その結果として老朽化したインフラや木造建築物の密集が、現在の都市生活における課題となりつつあります。
過去数十年の間に東京や大阪、名古屋などの大都市を中心に、都市の発展・高度利用化が促進されてきましたが、都市の基盤整備や防災対策といった課題が残っている地域は多くあります。
上記に加えて、少子高齢化や人口減少により、持続可能な都市構造の構築が求められており、地震や洪水といった自然災害への備えもしていく必要があります。
さらに、近年重要視されている環境問題への対応として、エネルギー効率の高い都市設計やカーボンニュートラルの実現を目指す動きも、再開発における重要な要素となっています。
このように街の中核となる大規模な再開発事業においては、社会的・経済的な課題に対応するだけでなく、地域の活性化や都市の魅力向上にも繋がるため、再開発は近年注目を集めています。
再開発コンサルタントとは
再開発コンサルタントは、上記でご紹介した再開発のプロジェクトを進めていくうえで、計画から実行に至るまで支える専門家です。
再開発コンサルタントの役割は多岐にわたり、都市の再生や活性化を実現するうえで重要な位置を占めています。
再開発プロジェクトには、権利関係の整理や土地利用計画の策定、事業スケジュールの提案など、複雑な要素が絡み合います。
再開発コンサルタントは、これらのプロセスをスムーズに進めるため、調査や計画、関係者との調整を通じて事業を推進します。
たとえば、権利者の特定や登記情報の調整、不動産の適正な価値維持など、法的・技術的な課題の解決が一例です。
また、再開発コンサルタントは、地域特性を活かした提案や補助制度の活用を通じて、プロジェクトの価値を最大化することを目指し、地域住民や行政機関、民間事業者との協働を促すことで、事業の方向性を統一する調整役としても重要な役割を果たします。
さらに、再開発の実施後も維持管理や運営を視野に入れた計画を立て、持続可能なまちづくりを支援します。
このように再開発コンサルタントは、地域の特性や将来のニーズを踏まえた総合的な視点と専門的な知見を活用しながら、計画の立案から事業推進、さらにはプロジェクト完了後の維持管理に至るまで、再開発において幅広く包括的な役割を担っています。
再開発の事業スキーム
事業スキームは主に地権者、行政、デベロッパーの3者で成り立っています。
地権者は権利変換により従前に所有していた土地と建物の資産額に応じて、従後の建物の一部と交換することになり、その床のことを「権利床」と言います。
そしてそれ以外の部分の床を「保留床」と言い、デベロッパーなどが購入し取得をします。
また、再開発事業を行うには調査・設計・工事・補償など、様々な費用(原価)がかかります。それらは行政からの補助金や、従後の建物の一部(保留床)をデベロッパーが購入することで賄います。
再開発コンサルは、これらの権利変換の計画や補助金、保留床購入の価格の調整など、事業全体のコントロールや合意形成を担います。
再開発コンサルタントの仕事内容
続いては、再開発コンサルタントの仕事内容についてご紹介していきます。
上記でご紹介した通り、再開発コンサルタントは再開発業務に関する幅広い業務を行いますが、今回は再開発の流れに沿って大きく5つの仕事内容をご紹介します。
調査・分析と基本計画の立案(再開発の成立性の確認)
再開発コンサルタントの業務は、まず対象地域の現状把握から始まります。地域の歴史や課題、社会背景を調査し、現地調査やヒアリングを通じてエリアの特性や住民ニーズを明確化します。
さらに、土地利用や人口動態、周辺インフラなど多角的なデータを収集・分析し、再開発の方向性を検討し、この分析結果をもとに、再開発の目的やビジョンを定め、基本構想や計画を立案します。
基本計画は、地域住民や行政、事業者間の合意形成を進めるための指針となるほか、具体的な事業計画や設計図書の基盤として重要な役割を果たします。
地権者との合意形成・地権者組織の運営支援
再開発の成立性が確認されたのち、大まかな施設計画を描きます。
それらを元に権利変換の計画を立て、地権者の合意形成を進めていきます。権利者の大半からの同意が必要となるため、実際に何度も地権者との面談を重ねる地道な取り組みも必要となります。
また、再開発は多くの場合、権利者等によって構成される「再開発組合」が事業主体となります。設計や工事の発注などは、この組合の決議により実行されます。しかし権利者は一般人であることが多いため、実務は再開発コンサルを中心に推進されていきます。
また、合意形成のため、説明会や資料作成を通じて透明性を保ちながら関係者の意見をまとめ、プロジェクトの信頼性を高めながら組合の運営を支援します。
関係機関との協議・調整
続いては、関係者間の協議・調整です。
再開発プロジェクトでは、多くの関係者が関与し、土地所有者や地権者、行政機関、事業者、地域住民など、それぞれが異なる立場や利益を持つ中で再開発プロジェクトが進められます。
特に、行政をはじめとした関係機関との間で、再開発事業の法的な許認可手続きや、補助金の取得に向けた協議調整も担います。各所のステークホルダーと良好な関係を築きながら、事業を進めるために協議なども行います。
都市計画・施設設計、事業スキームの構築
そのほかにも実際の施設計画を進めていくために、都市計画・設計と事業スキームの構築及び協議・調整を担います。
都市計画・設計とは、再開発エリア全体の土地利用や建物の配置、インフラ整備など、具体的な街づくりの基本構想を描くプロセスです。
都市計画は行政が定めるもので、容積率や建蔽率といった施設計画の前提条件を緩和させるため、行政との協議や調整を行います。
一方、事業スキームは、計画を実現するための資金調達や役割分担、スケジュール管理といった、プロジェクトを推進するための仕組みや枠組みを指します。
これらが適切に策定されていない場合、再開発エリアの利便性や安全性が十分に確保されないだけでなく、地域住民や事業者の期待に応えられない計画となるリスクがあります。また、事業スキームが不十分であれば、資金繰りや関係者間の調整が滞り、計画そのものが頓挫する可能性も高まります。
再開発コンサルタントは、これらのプロセスを専門的な視点から支援を行います。
具体的には、地域特性や住民ニーズを考慮した土地利用計画やインフラ整備案を策定し、再開発エリアの魅力と利便性を最大化できるように計画します。
また、資金調達や補助金制度活用の検討や、関係者の役割分担を明確にし、計画の円滑な実行を支える体制を整えます。
事業実施と進行管理
上記の工程を経て、再開発は実施段階へと進みます。
計画を具体化する事業実施の工程では、進行管理を通じて、課題やトラブルに対応することで、工事の遅延やコスト超過を防ぎ、プロジェクトが計画通りに進むようにします。
再開発コンサルタントは、この段階でも施工業者や行政機関、地権者など多様な関係者と連携し、計画通りの進行を確認します。
また、必要に応じて計画の修正を提案し、トラブル発生時には対応を行います。
維持管理・運営計画の策定
再開発プロジェクトが完了した後も、再開発コンサルタントは、建物や施設の管理方針の提案、運営体制の構築、収支計画の調整などを行い、長期的な運営に関わる場合があります。
具体例としては、管理組合の立ち上げや外部専門家の選定支援を通じて、円滑な運営体制を構築するなどです。
さらに、エネルギー効率の高い設備の導入や定期的なメンテナンス計画による環境負荷の軽減とランニングコストの最適化、地域住民や関係者が主体的に維持管理に関与できる体制作りなどにも関わる場合もあります。
再開発コンサルタントの業務を行う企業
続いては、再開発コンサルタントの業務を行う企業についてご紹介します。
建設コンサルタント
まず1つ目が建設コンサルタントです。
建設コンサルタントは、再開発プロジェクトにおいて、主にインフラ整備や都市計画の観点から関与することが多いです。
再開発事業は、地域の活性化や都市機能の再構築を目的とする一方で、多くの場合、行政が主体となって進められるため、公共性の高いプロジェクトとして位置づけられます。こうした背景から、もともと行政からインフラ整備や都市計画の業務を受注していた建設コンサルタントが、再開発にも携わるようになりました。
特に交通インフラや防災計画といった都市基盤整備の分野では、建設コンサルタントの専門性が活かされるため、再開発エリア全体の利便性や防災性を高める計画を支援しています。
また、行政との長年の関係性を活かし、再開発の計画策定や事業スキームの構築にも貢献。公共性と民間の専門性を結びつける「橋渡し役」としての役割を担う点も、建設コンサルタントの特徴です。
設計事務所
次にご紹介するのが設計事務所です。
再開発では、街全体の再整備を通じて新たな価値や魅力の創出が重要視されており、設計事務所は建築物のデザインや機能性を提案することで、地域の特性を活かした施設や空間づくりに貢献しています。
設計事務所はもちろん設計業が本業ですが、再開発事業の設計報酬は高額となるため、その営業的な意味で再開発コンサルの領域に進出してきた経緯があります。今では主要な再開発の多くが大手の組織設計事務所により、コンサルティングされています。
設計事務所が再開発コンサルとなるメリットとしては、初期段階からプロジェクト全体の調整を行いながら、設計事務所の視点を反映した建物やインフラ計画を提案することが可能となります。これにより、プロジェクトの一貫性を保ちつつ、効率的に設計業務を進める狙いもあります。
独立して起業するケース
再開発コンサルタントとしての経験を積んだ人が、独立して会社を立ち上げるケースもあります。
特に、上記でご紹介した設計事務所や建設コンサルタントで得たノウハウや人脈を活かし、柔軟な対応が求められる中小規模の再開発や地域密着型プロジェクトに取り組むことが多いようです。
まとめ
今回は、再開発コンサルタントの役割や仕事内容についてご紹介しました。
再開発は、地域の課題を解決し、未来の都市を形づくる重要なプロセスであり、再開発コンサルタントはその中心で活躍する職業です。
まちづくりや開発事業に興味がある方は、再開発コンサルタントを選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。
また、再開発は建設コンサルタントや設計事務所が手掛けるケースも多いため、自分の興味がある分野や得意分野を明確にし、それに合った業界や企業を選ぶことが大切です。
目的を明確にしながら、逆算してキャリアプランを描いていきましょう。
再開発コンサルタントに転職するための条件は企業によって異なり、実務経験が求められる場合や、資格の有無が問われる場合があるなど、ご自身に合った条件の企業を調べるには比較的労力がかかりやすいです。
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